物語No.031

家康の手形

年代
元亀、天正の頃
場所
浜松市東区豊町
現在の名前:豊町
古い名前:倉中瀬村
キーワード
助けられた話, 敵から逃げる, 敗走, 隠れる, 助けられる, 褒美を与える, 豊町, 柄杓, 徳川家康, 東区,

物語本文

 元亀、天正(一五七〇年~一五八五年)の頃のことである。
 浜松市豊町、その頃の倉中瀬村に、喜代八という農夫があった。
 喜代八はある日、天竜川に小舟を浮べて、投網をして魚をとっていた。するとどこかで、
『おーい』
と呼ぶ声がした。顔を上げて見ると、東岸の葦(あし)の茂った中に、身をすくめるようにして、一人の武士が呼んでいるのだ。
『何か、用かえ』
 喜代八が言うと、
『舟で西へ、頼むから越してくれ』
と言うのだ。
『おい』
 喜代八は気軽に舟を東岸につけた。
『西へ渡してくれ。敵に追われているのだ』
『どうぞ』
 喜代八は、武士を西岸に渡してやった。
『有難う、私は浜松城の家康だ。今日は銭を持っていないが、後で払うからな。この手形を持って城に来て呉れ』
 そう言って家康は、そこにあった、舟の水をすくい出す大きな柄杓(ひしゃく)の横腹に、墨をたっぷりつけた手の形を、ぱんと捺(お)して行った。
 その後、喜代八がその柄杓を持って浜松城に行くと、家康は、
『おお、あの時は有難うな』
と沢山の褒美を呉れたと言うことである。

参考文献
  • 文献ID: R000
  • 文献名: 家康の愉快な伝説101話
  • 著者: 御手洗清
  • 発行: 遠州伝説研究協会 発行年: 昭和58年2月20日
  • 引用ページ: 100,101
住所
浜松市東区豊町

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 この地点は、必ずしも物語の舞台となった場所を示しているとは限りません。